クロスレット・シルバー /いすず
な。誰よりもつよいことじゃな。
「なあ、じい」
「なんじゃ」
「神は、いると思うか」
おじいはにっと笑った。
「おまえの心の中に、いるさ」
心の中さ、眼に見えるものじゃないのさ。そう笑って、おじいは眼を瞑った。血の気が引いていくようだった。千尋は傍で、手を取っていた。
おじいが息を吸い込み、そして、二度と吐かなくなった。千尋はむしろを懸けた。どこかで、街のジングルベルが鳴っているように聞こえた。
振り向くと、羽鳥が立っていた。
千尋はその冷えた手を取った。羽鳥はいやがらなかった。
「たいせつなもの、なくしたんだ、今」
ぼうぜんと立ち竦んで千尋が言うと、羽鳥のクルスがそっと
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