在り方の在り処/海里
夏の最中の暑い日に
アリの引っ越しを見たことがある
小さな黒いアリたち
餌運びでなく
引っ越しだと思ったのは
口々にタマゴらしきものをくわえていたから
元の巣が何で駄目になったのか
何かしてやれることはないか
探してみたけどわからなかった
さて、のちの書物によると
小さな黒いアリたちの和名はサムライアリ
口々に運ばれていたのは
クロヤマアリの繭
つまり私が引っ越しだと思ったのは
サムライアリによるクロヤマアリの繭強奪現場だったらしい
サムライアリの巣で
働きアリしているのはすべて
繭からかえったクロヤマアリというわけ
けれど
虫たちの世界に
「かわいそう」などという言葉は無用である
サムライアリは
もはや自分で餌を集めることすら
できないところまで進んでしまっているのだから
ひとが詩を書くと
星も花もさびしがっているらしい
誰にも
気づいてもらえなくって
けれども森羅の側にもし
ひとに気がついて欲しいことがあるとすれば
それは擬人化することでは見えなくなるものだ
ありのままの在り方の在り処
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