かあさん/小原あき
「あ」と「か」を並べると
少しだけ
二つは温度を上げた
せめて、
あと「さ」と「ん」があれば…
電話のベルで
泣いていたのに
気がついた
涙を拭って
受話器を取ると
その向こうから
母が危ないと
ここではないどこかから
聞こえてきた
とりあえず
ありったけの服を着込み
「あ」と「か」を
貼り付けた紙を持って
外へ出た
外はいよいよ
回転速度を増している
巻き込まれないように
上着をぎゅっと握って歩いた
母のもとへ着く前に
せめて「さ」と「ん」が
見つからないかと
願いながら
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