スパイラルシークエンス/しろう
 


湾岸の廃倉庫にある
錆び付いた二重らせんの外階段は
ほころびた日の影を登らせるだけとなり
月はオセロの相手をしてくれないから
時の番人は銅鐘を叩く度ごとに
旧く歌い聴かされたシークエンスを
果てなく繰り返し吟ずるようになっていた

上昇するクラリネット
対旋律のオーボエ
彼の歌声はピアニシモ

消え去ることを認めずに
ジェット機の噴霧のように
影を落とさずに
伸びてゆく

犬も訪れぬ公園の
乙女の像を取り囲み
吹き上がる噴水
寄る辺のない小鳥の
遊び場

その飛沫の音だけが
終わらないリズムを
彼の歌に捧げるけれど
休符さえも知らないそれ
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