件の話/影山影司
私は彼に対して、醜いナァと思う以上、特になァも考えなかった。だって彼ときたらぶよぶよしてて、生気の淀んだ肌と、まだらに伸びた無精ひげが全身に広がっていて、それでいて牛みたいな体に中年親父の顔してたんだもの。
おまけに彼ったら、歩道の脇に蹲ってるもんだから、時折通行人がけっつまずいて、こけそうになる。その度に、緑の汗を垂らしててへへ、と笑うんだ。
醜いナァ、と呟くと
私だってね、と睨まれた。
好きでこんな事やってるわけじゃないんですよ
しょうがないのですよ
誰も私に気づいてくんないし
居場所なんてないし
こんな姿でも日陰は寒くて
日向の暖かさにひかれてしまう
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