ヨゼミ/ねなぎ
蝉の声がした
蝉さえ鳴かなければ
静かな午後に
少し涼しい風が
カーテンを揺らしていた
席は三つ
高校の三階の
準備室の埃っぽい匂いと
積み上げられた椅子
圧迫する教材
目の前の
少し太り目の
禿げが
嫌そうな顔で
睨んでいる
横の友人は
ただ窓の外を見たまま
遠い目をして
受け流している
僕は焦って
怯えたまま
蝉の声が
胃の腑にまで
染み付いて
重く
平衡感覚を
失っていた
現実感の無いまま
歪んでるみたいに
どこかで見たように
グランドでは
陸上部が
声を上げている
なんでテストを受けなかったんだ
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