君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 
なる。でも、決して零れない。あの日枯れた涙は、今もなお枯渇しきったままで、いくら悲しくても、辛くても、涙が溢れることはない。気持ちの悪い嗚咽が漏れるだけである。
「一緒に退院しよう」という約束は、どうも果たせそうにない。

 その日は、夕方から降り出した雨が、夜になっても止まずに強く降り続いていた。時折、遠くの方で雷が鳴っている。どうやら、台風が近づいているらしい。強い風が窓をがたがたと揺らす。
子供の頃の私は台風が来る度、何かが差し迫る予感にわくわくしたものだが、悠人はどうなのだろう。もし、今もまだ会っていたなら、台風について彼はどんな感想を漏らしただろうか。けれど、そんなことはもう知り
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