君の背中に追いつかない/秋桜優紀
でよ」
手近の椅子を指差して手招くと、男の子は見たことも無いくらいの慎重さで、恐る恐るこちらに近づいてきた。まるで、私の周りに周到に罠が張り巡らされているのではと疑っているかのように。
「あ、そこ踏むと爆発するから気をつけて」
冗談交じりにそう言って彼の足元を指さすと、弾けたように体を捻って器用に着地点を変え、危機一髪とばかりに手の甲で汗を拭った。
――本当に疑ってたのか。
それからも男の子は変な具合に身体を捻りつつ、ようやくベッド脇の椅子にまで辿り着いた。
「……」
「……」
お互い向かい合ったのは良いが、それから気まずい沈黙が続く。お互い何故か息を殺していて、息遣いの音
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