君の背中に追いつかない/秋桜優紀
秒そうした後に、ようやくそれが、遠慮がちに響くノックの音だと気付いた。
「ああ、はいっ。どうぞ!」
友達が見舞いにでも来てくれたのだろうか。慌てて髪を手櫛で梳かしているうちに、小さなノックと同じくらい遠慮がちに、引き戸がゆっくりと開いた。
「――こんにちは……」
そこに立っていた小さな背格好は、私の想定したどの友人の姿とも違っていた。短く仕上げられた髪の毛も、随所に見られる顔の不完全さが示す幼さや青色のパジャマも、何一つとして彼女たちに合致するものはない。
「あ、昼間の……」
そう。今病室の入り口に居心地悪そうに立っているのは、女の子からクマのぬいぐるみをとり上げていた、あの男の子
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