君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 
ある証。闇に沈んでいく意識の中で、塩辛い雫で湿った枕の冷たさを、私は確かに感じていたのだ。

 ――こんこん、こんこん。
 静かに、少しずつ鮮明になる意識と共に、乾いた音が頭の中にまで響いてきた。
 眠る前にはまだ明るかった辺りはもう薄暗く、目だけを動かして見た時計の短針は夕方の時刻を指している。久しぶりに随分眠り込んだようだ。病室にほの暗く差し込む橙の夕陽の美しさを、寝惚け眼のままに見つめる。
 こんこん。
 また、乾いた音。
(――何?)
 上体だけは起こしたものの、頭の中は未だにはっきりしていない。音の意味を捉えかね、白塗りの戸を見つめたまま、しばらく考え込む。たっぷり数秒そ
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