君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 
こには誰もいなくなっていた。ベッドの隣のテーブルには、見慣れた几帳面な字で「仕事に行って来ます」との書き置きがあった。
 本当は入院が決まった直後、母は私の看病の為に仕事を辞めようとした。しかし、それを止めたのは他ならぬ私自身だった。そんなことがして欲しいわけではない。そんな献身が私の病状を変えるわけでもないのだから。
そうなるとお母さんも、四六時中私に付いていられるほど暇なわけではない。彼女には彼女の生活があり、そのお陰で私には一人で様々なことを考える時間ができた。しかし改めて考えてみると、母は私の傍にいたかったのだろう。でも、日に日にやつれていく私を見て絶望し、泣きじゃくる彼女をずっと見て
[次のページ]
戻る   Point(1)