無題/10010
《何も無いところ》に寺院が建つ。迷宮は見失った。「わたしは立ちつくす迷宮であり、上下に腐敗する男なのです」 世界の総量から雨がそっと漏れ出す。時間を置いてくることは可能事だがそれをひとは時間と呼ぶので涙が数滴零れる。しかしそれを原因と結果と呼ばないのも、天秤のくすんだ輝きと同じだ。正確に釣り合うことではなく、釣り合わぬことの正確さを朝となく昼となく信じる者だけが万象の晩鐘を打ち鳴らした上で正座して憤死する。それでも自死した者よりも遙か言葉を持たぬ植物であるのはそれが上下にしか咲かぬからであって、「見よ、この一輪の花でさえもうすべてを濫費してしまった」。そうしてもはやわたしたちに居場所が残っているときでさえ場所は残されていないのだから、などと囁く君のことが好きだ。この一節を繰り返さないでいられる間だけ。
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