六月/ふるる
女の子は春に生まれました
桃色の小さな小さな靴が贈られました
風が若葉や清楚な花の匂いを運んできました
女の子の母親は六月がいっとう好きでした
雨が降ると木々や庭の草たちが
歌を歌うからです
歓びと感謝の歌を
あまりにも耳に心地よいので
小さな女の子にも歌ってあげました
小さな声で
ふっくらとしてきたほっぺたに頬を寄せて
女の子の父親はあの青くて白い波が砕ける海へ
行ったきり帰って来ませんが
生きてはいるようですので
置いていった葉巻はまだそのままです
女の子はやがて少女となり
やはり六月がいっとう好きになりました
雨が降ると雨粒たちが
遠い遠い海の
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