冬の航跡/たりぽん(大理 奔)
 
頬を強く叩くために
雨は雪になったのです
賀露港にたたずむ
漁船のランプを揺らして
海を越えて雪が来ます

  耳をふさぎ目を閉じると
  遮蔽しきれないものが
  肌の上でぴりぴりと生き続けます

言葉を持たない石たちに刻む祈りのようです
海鳴りのように繰り返す
あなたが私に刻んだ言葉のようなのです

立ち尽くす時間のぶんだけ
刻まれた文字もかすれてしまい
路傍で激しく叩く霰が(あられ)うるさいので
思わず石碑の口をふさぎます

  逃れられないものを時間というのであれば
  時間もまた、私から逃れることはできません

打ち付ける北風が私を揺らします
雨は雪になったのです
時化だというのに漕ぎ出す船があります
波間に航跡を刻むために進むのです
雪が波に消えるように
わだちも残さない
あなたの道を進むのです



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