グロ/チアーヌ
 
で、俺は無視して通り過ぎた。
 鳥を捕まえていた男がこちらのほうへ近づいて来て、車椅子の男に何やら話しかけ、車椅子を押し始めた。その方向が、通称『電子レンジ』と言われる処理施設だったので、 
(なんだあいつは、『電子レンジ』に行く途中だったのか)
と気がつき、俺はますます気が軽くなって歩き出した。人間が茹で蛸みたいになって身が裂けるという噂のところだ。それほど長い時間はかからないらしい。どちらにしても、足が削られたくらい大したことじゃないだろう。
 なんだかここの職員は全員あの男に思える。俺にとっては若い男なんか皆同じに見えるからな。区別なんかつかない。と言うよりも無いんだ。
 何度も何度も頷きながら、足から血を流して運ばれて行く男。笑っている様な顔をしていたが、もうああいう顔しかできないんだろう。そういえばあの時も、茹で蛸みたいになった男は、最後、笑った様な顔をしていたなあ。
 俺は「グロ、グロ」とつぶやきながら手押し車を押し続けた。



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