夜の蝉/折釘
 
そうだけれど、それはとても不思議で神秘的な事だと思う。
晴れに日に、空に、土の中での長かった時間と、地上での短すぎる生を叫んでいるような気にもなる。
だけど、決して嘆いているのではない。
地上の景色は夏しか知らない、蝉にとって当たり前のことを、当たり前に歌っているだけなんだ。
蝉の鳴く姿は、身を思いっきり震わせる。

この蝉は、最後に何を思っただろう。
幸せだろうか。
不幸せだろうか。
分かりもしないことだけど。
この蝉の最期の声は、何を伝えたんだろう。
分からないけれど、頭の両側にはり出した複眼と、真ん中の三つの単眼で、見てきた全てに感じていたんだろう。
それを、声を限りに空に放ったんだろう。
いい人生だったかな?
人それぞれがあるように、蝉にもいろいろあるんだろうね。
お前の叫び方では、俺が理解するには難しかっただろうけど。それでも。
おつかれ様。
お前達は、夜の間に死んでしまう生き物のような気がしているよ。きっと、叫びつかれた頃に。
ひと思いに呼吸をとめている気がしてる。
ゆっくり休みな。
君の亡骸は、花壇に埋めたよ。



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