夜の蝉/折釘
 
夕べの階段の踊り場に止まっていた蝉が、今朝出勤する時には落ちていた。
死んでいた。何となく、そうなるような気はしていたけれど。
夏は、蝉の季節。
人通りが絶えるほど暑い午後に、街の影に蝉の声がこだまする。
休日は長く眠ろうと思っても、とんでもない。
いい加減、るっせーな!と言いたくもなる。
夏の空には、蝉の声が似合う。

自分でうるさくないのだろうか。蝉はどうしてこんなに一所懸命に鳴くのだろうか。
そりゃあ、人間の耳の感覚や時間の尺度では計れない。
蝉は、長い間土の中に住んで、地上で成虫となって、短い時間を鳴き、恋をし、子孫を残して死んでゆく。
それだけの事だと言われればそう
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