スウィートミュージックは、時々、熱くなる。/木屋 亞万
 
親指を蜜柑に差し込むと
右手から全身に流れてゆくメロディがある
皮から弾けた汁は、血液をオレンジ色に染めていき
弾ける微炭酸の気泡が、心臓の凝りをほぐしていく

蜜柑の房の皮を八重歯で裂くと
プチプチと破裂していくビート
頬は膨らみ、首は小刻みに揺れていく
青春の熟れた音色に、甘い過去が黙っていない

騒がしくても許されるのが音楽
すべての粒を繋ぐリードボーカルの紅潮した頬
楽しそうに踊る舌、胸から、腹から、大地から
甘い声が、まるで人の声でないように、確実に響く

スウィートミュージックのように炬燵は
背骨の骨密度を減らしていき、できた隙間に
蜜柑ゼリーを流し込
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