聞こえる/いねむり猫
耳をすませば
私の聞きたかった音が訪れる
自分の生きるリズムが回復する
聞こえる
私を 遠く 遠く 連れ去る音
私は なによりもその音をたどって 旅していたのだ
高原の森の中で ふと聞いた縦笛のつぶやき
北の海で 氷を震わせている鯨たちのエコー
地下道に反響する 地の底から這い上がってくる衝撃音
灯台の光がかすめる部屋で 目を閉じると満ちてくる潮騒
高い秋の空を 飛翔する翼の風切り音
湯の中で ほうけた頭に滴る水音
暗い暗い岸壁でうずくまる二人にやっと届けられた 巨船の霧笛
見上げる塔の上で 空に向かって捧げられるボーイソプラノ
耳をすませて 体の全体で
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)