段差のない家/木屋 亞万
中学時代の恩師が猛烈に車にひかれたと聞いて、慌てて病院へ駆けつけた
3階のナースステーションを抜けて、突き当たりにある個室に先生の名があった
ノックして扉を開けると、そこには一台の車があった
長方形の狭い個室に詰め込むように、ピッタリと乗用車が納まっていた
扉を開けたまま凍りついている私のもとに、大きな缶を持った奥さんが現れて
「あら、わざわざお見舞いにきてくださったの、主人も喜びます。今ね、ガソリンを譲ってもらおうと思って、近くのガソリンスタンドまで行ってきたんだけど、灯油みたいにポリタンクに詰めてって訳にはいかないみたい。いろいろと手間やお金がかかるものね、早く退院してもらわない
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)