縄文イチゴ/海里
 
山火事でもなければ
原っぱなんてどこにもなかった
照葉樹や広葉樹の
極相林ばかりの土地だった

だけど
クリやクルミやドングリを貯えながらも
一年のうちいっときだけ味わえる
甘やかな赤い草の実を
彼ら楽しみにしてはいなかっただろうか

縄目模様の土器に
どっさり摘み取ってみたり
赤米ではなく
果実酒を醸してみたり

ひたひたと寄せてくる海と
今よりずっと暖かだったはずの気候の中で
時折ごくまれにもたらされる首飾りや耳飾りの瑪瑙

そういうものや
煮炊きの炎や
夕日を見て
あの実の色だと思わなかっただろうか

そうしたら
それが詩のはじまりだったかもしれない
独り言としてさえ
口に出されることがなくても

縄文時代のプラント・オパールの中に
イチゴの花粉を探したひとはいないか
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