書くこと、まどろむこと、決めること/渡邉建志
 
書くという漢字には斜めの線がない。

書く、という言葉を聞くとき、わたしはどうしても、カクという金属的の響きを受け取ってしまう。引掻いて、削っていくこと。
曖昧な気分や感情を、紙に写していくのではなく、思考を掘り下げて、彫り上げて、最後の「書かれたもの」に辿りつくような、響きがする。
「エクリチュール」という、わたしのよく知らない言語の、単語をカタカナ表記で見かけるとき、わたしはわたしの日本語の連想のなかで、
「クリティーク」という外来語と、「カルチャー」という外来語を想起してしまい、前者は厳しい顔をして、
書くという名に値する行為の閾値を上げ、後者は鍬でもって、やはり厳しく辛抱強く削
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