夏子のダウンジャケット/サトタロ
 
控えて
夏子はいやに冷静に床に就いた
せっかくの時にダウンジャケット狩りにあったら嫌だし
そんなことを考えている間に眠りに落ちた

目が覚めると枕元に
ダウンジャケットが置かれていた
夏子は一瞬当惑してから
予想外のできごとに喜びを爆発させた
お母さん!
ダウンジャケットを抱き締めて
その抱き心地に胸を躍らせた

はたしてダウンジャケットを着た夏子は
鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌で
生来の器量の良さもあり
待ち合わせの最中に人目を集めていた

約束の待ち合わせ場所に二時間はいただろうか
彼は現れず
一週間後には担任の口から
かの日に家を出てから消息不明であることが告げられた

夏子は
約束をすっぽかされたと意気消沈して家に戻り
ダウンジャケットをハンガーに引っ掛けた時
背中側の裾部分に
血が付いているのを見た

母親の料理の味付けが変わったのか
夏子の味覚が変わったのか はっきりしないが
ダウンジャケットの左のポケットに
彼が好きだと言っていた味付き玉子が入っていたのを
夏子は今でも覚えている
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