花/松本 卓也
少し遅れて冬が訪れた
待っていたということも
疎んじていたわけでもなく
ただポケットに両手を突っ込み
何か特別に思い煩う気持も浮かべず
ぼんやりと立ち尽くしたまま
ひゅうひゅうと喚く声に
吸い込まれた溜息が
遥か山の向こうへと
舞い逝くのを眺めていた
どんな苦い時でさえ
過ぎてしまえば欠片の記憶
思い描いた優しい未来も
迎えてしまえば単なる現実
手を伸ばし触れた雫は
灰色の帳から駆け下りて
空に在る一時だけ
白のままで居られるのだ
花が欲しかった
もうずっと前に見失った
静かに微笑む白い花が
冷たい風に包まれて
記憶が凍り付いてしまえば
移ろう日々に触れて
泡沫と解けて消えるまで
真白いままでいられるのだから
もう少しだけ
もう一度だけ
夢の中で咲いていて
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