夜と歩み/木立 悟
隙間のうたが家をなぞる
屋根を除き暗く浮かぶ
金と緑 水と水
互いを招く 打ち寄せる
棄てられた庭
蔓が壁に描く大木
雨の音 波の音
色の音 鎮む音
遠のく先に遠くは無く
双つの鏡の会話のみがあり
夜はほんとうの夜を歩み
建物を少しだけ低くする
雨の光が羽になり
窓を下から喰んでゆく
ところどころ欠けたうた
さまようものにまたたく冠
羽が羽に乗り左右を打つ
わかりやすいものばかりが列を為す
日々のしるし 押し花の陰
音とも文字ともつかぬはばたき
染が染に重なりゆく
均しても均しても溝はある
誰にも分からぬ言葉の色が
空へ空へ到きゆくさま
暗がりを馳せ
布が壁を擦り
声と声を発つ
粗い光の頬をゆく
手の甲が縦の炎に
まなじりを縫い まなじりを解く
ねずみ色の夜の背が
夜を運び 夜を鳴らす
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