深海/瀬田行生
 



この世界に疑問なんてひとつも持たなかった


そんな風に思えなくなったのいつからだろう?
全てが疑い深い光景に見えてしまって
自分でもすごく嫌になる

僕らは人の視線から逃げて逃げて逃げて
結局深海に逃げ込んで沈んだ

それでもやっぱひとりでいるのは嫌で
遥か遠い水面に人の影を探し出したりした

そして誰かが水面に優しく近づいたときだけ
顔を出して笑いあったりして
嫌なことがあれば水中から
無責任に微笑んだりしてた


感情はそこら辺にフワフワと浮かんでる
水と溶け合っているみたいに

嫌な思い出も何もかもはっきりと見なくていいから


すごく楽


でもいとおしかったあの人の面影も
見えなくて困ってる

でも僕らはいつかこの深海から抜け出せると思っていた

明日の光が僕らを優しく照らせば
優しい誰かが僕らに救いの手を差し出してくれれば


しかしながら


僕らは気づいてなかった

深海になんて沈んでなかった僕ら
僕らは初めから深海にいたんだ
この深い深い深海に
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