センチメンタル/渡 ひろこ
 
終わってしまったはずなのに
密閉した重い蓋の透き間から
かすかにに甘くたちのぼる


胸の底 荒野の地中から
かぐわしい薫りはゆるゆると漂い
真夜中の片すみにうずくまる



それはビターチョコレートで包(くる)んだような
ダークな光沢を放つ塊となり
「もういちど溶かして…」と
艶やかに横たわる


別の生き物に姿を変えようと企てながら
闇の中でこっそり呪文を唱える黒い塊



気づいたら記憶の淵に手をかけ
のぞきこんでいた
オブラートのような切なさが
ぴったり身体に張りついてくる
時間をもどそうと鼓動を速める薄い膜


半透明の綺麗に繕った葉脈まで
引っ掻いて破らないように
指先でそっとつまんで引き剥がす



(馴染んだ着メロ変えたのはいつからだったろう)



こんどは決して漏れ出ないように
不整に鳴り響く心臓も投げ入れて
煤けた重い蓋をぴったり閉じた


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