巴旦杏洋菓子/木屋 亞万
 
イドし中の紙をめくる
底のぼこぼこした感触の中で
最後の一つとめぐり合う

乾いた種を思い切りかみ締めたとき
口はいつも湿潤であることに気付いた
空の牛乳パックが誰もいないのにパタンと倒れた
本当はあの人の中指を食べたいのだと
パックの中で暴れる自分は言う

あの人が作り出す腕と脇の隙間は
山間部の朝靄のような透明感をシャツに与え
背骨の頂、首の付け根の突起や、胸の上部に広がる鎖骨は
どのカルデラ、クレーターよりも美しい
横顔の前髪、目、睫毛、鼻、唇、顎のラインは
どの花のおしべ、めしべ、花びらよりも可憐で
閉じていく花弁を覗き込むように
あなたにキスがしたいのだと言う

私はそのパックをリサイクルするべく
切り開いた後、水で牛乳を洗い流して
窓際に広げて置いておく
明くる朝、陽光を浴びた乳臭さの残る紙は
私の生まれたての精神を刺激する
今日もチョコレートを買い
食べるためだけに
歯を磨き、服を着て、家を出る

戻る   Point(1)