心臓と銀杏/木屋 亞万
 
心臓の外壁が毛羽立って
秋が来たのだなと思う
それまではツルツルと滑らかな桃色で
トクトクと脈打っていたのに
潤いを失ったようにチクチクと壁面を広がってきている
それは太陽に透けたいつかの彼女の枝毛のように
乾いた樹木の皮をめくった時のいい香りがする
強い紅を含みこんだ茶色をしていて
さわさわと鼓動を流し始めている

幾筋ものあばら骨の守るものが
紅葉した心臓であるので
秋が終わると
美しい木々の群れは
骸の山のように黒く硬い骨を揺らす
ぱりぱりと揉まれていく落ち葉が
乾いた血液のように
茶けて、煤けて
細胞はいつのまにか壊死

銀杏は生まれた時から裂けてい
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