喪失としての時間−「存在の彼方へ」を読んでみる13/もぐもぐ
「痕跡」とは例えば足跡である。誰かが通り過ぎると、そこに足跡がつく。これが「痕跡」である。「痕跡」は、誰かが通り過ぎたという「事実」を語っている「標識」である。誰が通り過ぎたのか。足跡であればその形や大きさから、それを見分けることも可能だろう。だが、足跡をつけたその者が実際何者であるのかは、ここでは大して重要ではない。重要なのは、何かが「通り過ぎた」という事実である。何が通り過ぎたのか、それは「時間」である。「時間」は通り過ぎるとき、「皺」「老化」という形で、その「痕跡」を残していくのだ。別の言い方をすれば、何か分からない何ものかが「『通り過ぎた』という『事実』そのもの」、それが「時間」という
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