リリスのためのララバイ/佐々宝砂
闇を歩くあなたの素足には
ぎらぎらする光点が
まとわりつくのです
螢じゃありません
火花です
さわれば火傷する
青白い火花です
死せる姉よ
いまも世界の暗い側を歩く
姉よ ここにきて
ひとときこの浜辺にお休み下さい
あなたには
今夜も宿がないのでしょう?
月はあなたの姉妹―――でも
月はあなたに顔を見せません
海はあなたの姉妹―――でも
海はあなたに喋りかけません
そして
あなたを怖れて
ララバイ ララバイ
リリスよ去れ と
女たちが歌います
あなたの旅は長くつらいのに
わたしの生の幾万倍も長くつらいのに
だから どうか わが姉よ
ここにきてひとときお眠り下さい
火花がまず最初に痛めつけるのは
男たちではなく
子どもたちではなく
あなた自身の足なのだと
わたしは知っているのです
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