定置漂流/ホロウ・シカエルボク
もしかしたら楽しんでんのさ
電車通りを渡ったら河のほとりに出る
昔変わり者のサムライがそこで泳いでたらしい
今じゃ酔っ払いの便所以外に
存在価値が大して見いだせないその河で
さようなら偉人さん
あんたが嘆いていたころと同じ理由で
この土地は停滞をし続けているんだぜ
洒落た身なりの老婆が落葉を拾っている
入口の閉ざされた古い木造家屋の前で
門に絡まったいくつかの蔦が
「もうここには過去以外住んでいるものはありません」
そんな独り言を呟いているみたいに見えた
冷たいだけの風が吹く季節には傷みが少しラクになる
目を覚ましていればどこにも行けないなんてことはまずない
忘我の時に時計を眺める癖がついたのは
仕事を始めて数ヶ月が過ぎたころだった
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