さらわれた魚怪類/木屋 亞万
 
彼も昔は普通の水辺に住む生き物だった
腹が減ったら飯を食い、身体が求める通りに泳ぐ
底の方から水面を覗いて藻が緑色に透けるのを楽しむような
平凡な日々を過ごしていた

ある日、少年が彼の住む池で溺れていた
これはいけないと助けに行ったら、もがく足で思い切り頭を蹴られてしまった
少年は水をたくさん飲んでいるようで、服も水に濡れてきており危険な状態だった
彼は決死の想いで少年を助け始めた

思い切り蹴られて自分が駄目になっても別に構わないとすら思えた
なぜそこまで少年に献身的になれたのか
少年が釣りに来ても必ず魚を逃がしてあげているのを知っていたからだろうか
自分でもはっきり
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