死せる姉のためのバラッド/佐々宝砂
 
姉は 目覚めて 自分が
見慣れたヒースの野原にはいないことを知った

姉の夫は彼女を顧みなかった
姉の夫は他の女と愛を誓った
姉の子供は流れ去った
姉はだから子どもたちと男たちを憎んだ
姉の名は古い古い書物に記されている

姉はあたりをみまわす
ここはどこだろうと
いぶかしむ

くりかえし
くりかえし
砂浜にまいあがる
白い波の花

くりかえし
くりかえし
波は寄せてはかえし
姉の足を洗い

くりかえし
くりかえし
姉はなおも抗い

ゆっくりと世界は変化し
浜にうちよせる漂流物は
石器から鉄器へと
蒸気機関から原子力機関へと
あるいはま
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