その瞬間に/乱太郎
 
寄せる沈黙の幕
枯れたはずの涙が
透明な涙が
胸の奥にこぼれていった
同時に
時の雫も音もなく沈んでいく
手を差し伸べてみたが
掴むことが出来ずに
意識の下層に沈んでいった
今 この一瞬



   *



1 血管の極度の凝縮の果て つまずいた一個の青森りんご
  振り向くと 君の寂しげな眼が 白い森を彷徨っていた

2 輪投げに興じる少年達 標的は希望という名の幻想
  石を投げつけられた水面は まるで臆病者みたいに震えている

3 結末のない小説 無限大の微分に僕は戸惑う
  時間がなければ 自由になれたのに

4 粘着質の糸で かろうじて結ばれている 肉体と精神
  疲れた両足を背負って 夜空の星を 渡り歩く

5 無限から拾い上げた「今」 携帯電話が未来を告げる
  無数の過去から 一本の未来が 釣られた



戻る   Point(17)