予知夢/aidanico
聞こうかとデッキのリモコンに手を出したらこれだ渋々項垂れながらタイマーをセットして煙草を消そうとすると、いやそれは吸い続けてくれ、と手で促すアルコールが回ってきたのか微かに頭がぐらっとしたのだが、たかが一杯の缶ビールで、と考えると同時にグラスを渡された手の向こうに男の眉が少し動くのが見えたのだった私は男を残し乱れたスーツを直し改札を抜け会社に行き帰ると部屋の外も中も真っ暗であった電気は点かなかった仕方なくライターで僅かな火を灯すとけたたましい轟音と共にステンレスのコンロも電球もマイルドセブンも缶ビールとそれが注がれたグラスも男の顔は思い出せずに襤褸のスーツに似合わずに細くて白い女のような指とわたしの体はばらばらになって燃えた。解体された意識とアパートの一室でゴルドベルグの第三変奏だけがカノンを止めずに繰り返されるのだったという夢で目覚めたら電気が付かなかったのでライターに手を伸ばすと
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