「空の字をじっと見てみて」「うん、みたよ」「パンダの顔に見えないかしら?」/木屋 亞万
 
ずっと昔のことなんだけど
ずっと一人で、近所をさ迷っていたことがあるんだ
公園の一人分の幅しかない滑り台を占拠して昼寝したり
ブランコを遊べないように上の軸にぐるぐる巻きにしたり
作りかけの砂場の山を自転車で破壊したり
公園の前にある全部の家ピンポンダッシュしたり
嫌いなおばさんの背中にそっと蛙を入れたり
ずっと悪戯ばかりで、一人ぼっちだった
いや本当は僕の中にさえ誰もいなかったんだ

僕の中は空っぽだった
僕の中に僕がいなかったから僕は僕でありはしないし
僕がいないなら僕に僕の事を気にする義理はない
僕のなかは空っぽで僕を求めてパンパンだった
空気だけが空っぽな僕のな
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