スクリプターレス・スクウェア/佐々宝砂
しんきらと冷えた冬空からこそ出発する
はずだった
真冬ならばきっと
乾燥した肌は粉を吹いて水を求めただろう
夜空の河の湿度はきわめて低い
のどが乾いたなら
お姉さんにあげるはずの牛乳を飲み干してしまえばいい
窓を開け放っておけばじきに海が侵入してくる
干上がった海 ディラックの海よりわずか豊かなだけの
その海にぎらぎらと銀に輝く門が浮かぶあそこから
きみの旅が始まるのだと古文書は記し
しんきらと冷えた夜空からこそ出発する
はずだった
神保町のみわ書房で懐かしい本を買っておこう
夕暮れの乾物屋で鰺の干物を買っておこう
水筒も忘れないように でも水筒は空にして
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)