道化が居た/松本 卓也
 
笑わせることができない道化が居た

目を見張る容姿も持たず
気の利いた台詞も吐けず
当たり前のことを
当たり前にこなせない

そんな道化が居た

いつ頃からそうだったか
何一つ覚えていないけれど
笑顔を向けて欲しくて
捨て置かれたくなくって

何の変哲も無いボールがあった
誰もがそれを蹴飛ばして遊ぶ
彼はそれさえも巧くできずに
乗り上げるように転んで
地べたに這い蹲るしかなくて

誰かが笑った
彼も笑った
体も心も痛くて
泣き出してしまいそうだったのに

嘲りであることなど
理解していたのに
ただ向けられた笑顔が眩しくて
かけられた言葉が嬉し
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