針と糸/ヨルノテガム
 


数ある千手観音の手の中で一本の薄暗いそれが
私に電話番号を渡してくる
いにしえの森から現代の迷路へ
情報を揺さぶり動かすのは今も昔も恋のひらめきであった
艶かしい顔と肢体、狂気のような挙手と主張は
その指の一本と私の指の間に赤い糸を結ばせて静寂を飲み
たゆみの中に死と生の綱引きを始めようとする
私が情報の海につま先をつけ浮かび
あの細く頼りない糸を何処かの綺麗な女の片隅に
引っ掛けて、引っ掛かりますように呪文し手繰り寄せる
あるとき力強く手ごたえが日々感じられ
自身も架空の園へ入り込み女神の欠片を探し求めるに
私が降り立ったのは無人の夜の針山であった
広大な景色に
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