死んだ木/小禽
先生は死んだ木に触れたことがありますか
深い深い森の奥で妖精の羽音がしています
静かを湛えて眠る沼には
子供の夢が沈んでいます
沼の周りを縁取るように
名のない花が咲いています
花を揺する柔らかな息は
遺跡の方から吹かれます
遺跡の上では錆色の象が
空を見上げて泣いています
その涙でバオバブの木が
暖かい朝に芽吹きました
私は昨日遺跡の下で
死んだ木に触れていたのです
幹は腐り枝は項垂れ
孤独に満ちていたものですから
掌で彼の話を
ゆっくり飲み込んでいたのです
長い命を生きた木は
果てない時間をかけて死にます
風が優しくおおらかに
朝を知らせて吹きましたので
今しがた帰ってきたのです
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