死んだ木/小禽
 

先生は死んだ木に触れたことがありますか

深い深い森の奥で妖精の羽音がしています

静かを湛えて眠る沼には
子供の夢が沈んでいます

沼の周りを縁取るように
名のない花が咲いています

花を揺する柔らかな息は
遺跡の方から吹かれます

遺跡の上では錆色の象が
空を見上げて泣いています

その涙でバオバブの木が
暖かい朝に芽吹きました

私は昨日遺跡の下で
死んだ木に触れていたのです

幹は腐り枝は項垂れ
孤独に満ちていたものですから

掌で彼の話を
ゆっくり飲み込んでいたのです

長い命を生きた木は
果てない時間をかけて死にます

風が優しくおおらかに
朝を知らせて吹きましたので
今しがた帰ってきたのです



戻る   Point(9)