単純な犯罪/木屋 亞万
その日私は熱を出し、かかりつけ医の待合室で
テレビに映るワイドショーをぼんやり眺めていた
来るまでの道すがら風に体温を奪われ
厚着をしてきたにも関わらず、身体は芯まで冷えてしまっていた
頭はニュースを受け付けず、キャスター同士のちょっとした談笑が
目に映ってくるだけで理解はできない、とにかく寒かった
部屋は暖房でとても温かく、上着の下のセーター辺りまで熱は届いてきたが
耳たぶ、鼻、手足、肋骨、背骨には寒さが凝り固まって残っていた
若い女性のキャスターが原稿を読む声がする
「今日未明、東京都渋谷区の路上で…」遠いところの話だ
「山下さん、こちらへどうぞ」看護師が呼ぶ
私は遠
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