◆あきの路/千波 一也
 


くれないを燃やしては織る彼岸花
散りゆくあきの路にざわめく



朝を着る嘘としたしむ桔梗の日むらさきいろの欠片をかおる


銀杏というなまえに咲いた羽たちを追いかけている日記はいまも


女郎花、もともとの黄はどこにある
傾きかけた夕やけのすみ




薄ければけがれることをためらわず潰してしまえるかげろうの数


赤とんぼ幼き頃のどう猛を羽にふるわせ優雅にこえる




潮騒は月がみなもとそれゆえに永くすすきは白髪のまま


ほおずきを砕いてあそぶ指さきをそっとかすめる「鬼さんこちら」


秋桜はなにをも染めず染められる
ひとごとに聞くしあわせに似て


枯れはてた姿のむこうで花ひらく
菊十重二十重こころ枯らせず




こおろぎの夜露をおもうあきの路
きせつという名は些細だけれど


はやにえをわらえるわれはどこにある
あきの路にはもずのなくこえ



招かざるものをもみじの火が包む
わかれの形のかえでのなかで






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