リヨンの月/aidanico
十二月の近いような夕暮れも移ろおうとして、ボジョレ・ヌーヴォーが解禁と言って景気よく人々に振舞われる様な頃、“ツキ”という名の男は綻びもせず転びもせずロビオーラの癖のつよい薫りを愛おしそうに嗅ぐのでした。何故そんなにも臭い薫りを好むンだい、と隣の“ホシ”と呼ばれた男が不思議そうに尋ねると、「俺は“ツキ"だからね、嘘吐きのあまのじゃくなのさ」と意地悪く目を細めて微笑みながら返すのでした。「だがきみ、ツキという言葉には幸運という意味もあるからね、」と付け加えて、ツキはじゃあこの一番上等なのを、と言って少しも惜しみもせず一万円札を差し出すのでした。一方のホシはというと、「君はよっぽどの物好きだ
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