8月の遺伝子/千月 話子
揺れる陽炎に 渇水し干からびたミミズの死体は
祈るように折れて アスファルトの道なりに続いている
あと数メートル先に 花咲き誇る 土の庭があるというのに
透き通る炎の中で 養分さえ焼き尽くされて 消えていくのか
散水機は清々しく水を携え 惜しみなく世界を潤す
風よ 乾いた体を軽々と 宙に飛ばせ
渦巻いてバラバラになる欠片に 少しの水とレクイエムを
遺伝子は探し続ける 粉々の粒子に成り果てても
遺伝子は自覚する 湿った土の匂いを
8月に来たる悲しみと 永遠に続く思い出に
涙は溢れ 涸れることは 無い
零れ落ちる塩の水が 帰るべき場所に辿り着く頃
全ての魂が 静かな夜の天蓋でベールを纏い
送り出される純白の 祖となる 記憶を持って眠る
抗おうとも 関せずとも
覚えているのは 染みた 配列
8月の遺伝子 遠い情景 、、、、、
戻る 編 削 Point(5)