林檎の皮と赤い風船/百瀬朝子
くるくる剥いた林檎の皮が
包丁持つ手にぐるぐる巻きついて
気分はまるで蛇使い
蛇の色の鮮やかさに恍惚
とする自分にエクスタシー
赤い風船 くもり空に飛ばして
太陽みたいだね、って
指を差して微笑んだのは過去のこと
あの頃は愚かにも永遠を信じて
空回りしてたんだ
生き物の体温に触れてぞっとする
おとなしいハムスター、
擦り寄ってくるねずみ色のネコ、
眠っている人間、
いずれも
穏やかな呼吸で生ぬるさを帯びていて
生きていることに躊躇いはなく
それはあたしの知らない温度
林檎の皮 生きてるのか死んでるのか
あたしの体温を奪って生ぬるい
その生ぬるさは
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