そういうこと/結城 森士
 
けた
一度として破ったことがなかった
佐伯くんと喧嘩して口を聞かなかったときも
この二度目の挨拶で、その瞬間に仲直りできた
あまり話さなくなったときも
佐伯くんが落ち込んでいたときも
絶対に僕らはこの「二度挨拶」の決まりを守った
この不思議な絆で結ばれた友情は、他の誰にも分からないだろう

一度だけ、僕が自分から挨拶をしなかった時がある
中学生の時だ
中学生と言えばそろそろ大人になる時期だ
僕も、その儀式が少しだけ恥ずかしくなってきていた
佐伯くんともあまり話さなくなっていた
だから、いつもは走って挨拶するところを
わざと歩いていった

すると彼は家に入らずに僕のことを待っていた
柵越しにこっちを見て待っていた
僕らはやっぱり笑って挨拶をした

ただそれだけのこと
ただそれだけのことが
如何に大切なことなのか
今なら分かる気がする
友達とはそういうものだ
そして人間にとって一番大切なことは
そういうことなのではないだろうか
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