黒/楢山孝介
 
に腕を動かし続ける。彼女のものではない腕が傍らを飛んで行く。やがて記してきた悲劇と同じものが彼女を襲う。インクの代わりに血が紙に滲む。記すもののいなくなった手帳は彼女の体とともに爆風に舞い上がり、焼け焦げた様々なものと見分けがつかなくなってしまう。記すものがいなくなった後でも、爆音と銃声に人が掻き消される現実は続いていく。黒く塗り潰された下で言葉は埋もれていく。それでもまだペンを握る人がいる。書き記す人は現れる。
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