明星/根岸 薫
 
いする
紙くずを拾って。

 【補足】
  (実を言うと
   自分の祖母が
   どこかの公国の大使であったと
   いう話は
   嘘であった
   今
   彼女はとおくで生きており
   おそらく ひとり
   つぶやきを口に運んでいるだろう
   日がな一日地球儀をまわして
   若い時分のおもいでの
   キエフ の 地に
   朝をもたらしている
   うつくしくかざり、
   くちもと そうだ
   一日に
   なんべんもの
   朝を
   かれらに呈する)

夕暮れ
燃える空の下
岐阜の妹が
明星を見上げて
紙くずを拾っている。


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